下水処理施設がないペルーのイキトスに循環型トイレを支援するツアーを企画実行
ジャパングレイス寄港地部:岩崎 由美子(いわさき ゆみこ)
単身でアマゾンの奥地を訪ね、1年後にはツアーを実施
今までさまざまな国へのツアーを企画し訪問してきましたが、なかでも、私が近年で強く印象に残っている地域は、アマゾン川源流に面する街、ペルーのイキトスです。
イキトスは、船と飛行機以外では訪れられない地域のため、「陸路では行けない世界最大の町」と呼ばれています。ここに暮らす人たちは、料理、洗濯、シャワー、トイレなど生活のすべてを同じ川で済ませるため、川には汚水が流れ込みゴミが浮いているなどの水質汚染が深刻です。また、きれいな水が身の回りにないため、慢性的なお腹の病気に苦しむ子どもたちが多く存在します。
イキトスを私に紹介して下さったのは、ピースボートクルーズに何度もゲストとして乗船されていて、長年に渡ってペルーの働く子どもたちの支援を続けている写真家の義井豊さんです。義井さんからイキトスの現状を聞いた私はすぐに興味をもち、2014年5月、ひとりでアマゾンの奥地を訪ねました。
現地では、イキトスの子どもをサポートするための取り組みを行っているNGO「INFANT」のメンバーにお会いして、話を聞くことができました。彼らは口を揃えて、「ひとりでも多くの人に来てもらいたい」「実際に自分たちの現状と活動を見てもらいたい」と言っていて、そのひたむきな姿を前に、私たちが貢献すべきことは何かについて考えるようになりました。
それから約1年後、約30名のお客様が、アマゾンの大自然や動植物を見学後にイキトスに立ち寄るというツアーを行ったのですが、このとき、「ただ単に訪れるだけでなく、イキトスのコミュニティの課題である水問題に貢献したい」ということを再認識。ジャパングレイスならではのツアーとして何ができるのかを本格的に考え始め、「INFANT」のメンバーと時間をかけて話し合い、結果としてはコンポストトイレ(バイオトイレ)のプロジェクトを支援することを決めました。
現地の人と触れ合い、
訪れた土地を身近に感じてほしい
コンポストトイレとは循環型のトイレで、これまで川に流していた排泄物をリサイクルして肥料にすることができます。仕組みは、雨期には水位が上がるため高床式のトイレを作り、水ではなく“おがくず”で処理します。そして時間をかけて有機肥料を作り、手作りの高床式有機菜園で、それらの肥料を使って無農薬野菜を育てます。また、雨水を貯めるタンクも設置し、綺麗な水を野菜作りや料理にも利用可能に。
そうして2回目のグループが訪問した際、1回目に支援したコンポストトイレの「除幕式」を現地の人たちが行ってくれたのです。この取り組みは現地の新聞にも写真入りの記事で紹介されました。
ペルーを含めイキトスで出会った人たちは本当に心が温かく、大らかな点も特徴です。たとえば、ミーティングをしていても早々に15分ぐらいで済ませてしまって、そのあとは「ごはんを作るから食べていかない?」と誘ってくれたり。そして、それから料理が始まり、気づけば2時間経っていたなどの予想外の展開もあります。話し合いやミーティングの進め方は国によってだいぶ違うので、現地の人たちに合わせて進めるよう意識し、行動しています。
イキトスへのツアーは始まってまだ間もないので、今後、現地の人たちのニーズに合わせて試みていきたいと思っています。そして、ツアーに参加して下さるお客様には、ピースボートの旅だからこその内容を体験していただきたい。現地の人と実際に触れ合ったり、その土地の現状を目にするなどのことを通して、訪れた土地を肌で感じてもらえると嬉しいです。
たとえば、お客様が船旅を終えて日本に帰って来たときに、新聞を開いて自分が訪問した国の名前を目にするとします。しかも、その土地に何かが起こった記事を読むときに、他人事ではなく「大丈夫かな」と身近に感じられるよう、そういう旅を提供していきたいです。
最も重要なポイントは、
お世話になっている方々の信頼を得ること
ジャパングレイスの寄港地部のメンバーは、それぞれ、訪問の予定が決まっている国を10数ヶ国ほど担当していて、その国の担当者と連絡を取り合っています。そして、たとえ訪問が3年後だとしても、連絡は常に取り続けて信頼関係を少しずつ築いていくように努めています。また、訪れる予定がなくても、以前ツアーでお世話になったNGOや旅行会社のかたとはコンタクトを取り続けてつながりをもつようにしています。
この仕事をしていて、私が最も重要だと思っているのは、お世話になっている方々の信頼を得ることです。たとえば、NGOの方々は、私たちが訪問のお願いをすると、彼らの日頃のアクティビティがあるなかでピースボートのためにスケジュールを空けてくれます。自分たちにとってはそれほどメリットがないときでも、「ピースボートは真面目に勉強して来るグループだから、受け入れましょう」と言って下さる。それはとてもありがたいことなので、訪問が決まったときだけ「お願いします」と連絡を入れるような態度は取るべきではないと肝に銘じています。
寄港地部の仕事は、自分がひらめいたアイディアを実行に移せるので、とてもやり甲斐があります。1年ほどかけて準備をコツコツと重ねて、自分が担当している港でプログラムが無事終わり、船が出港する時を迎えるとホッとします。そして、船旅を終えて帰って来られてからの報告会で、お客様が「自分にとって大変糧になる体験ができました」と言って下さったり、現地の方々から「来てくれてよかった」という声をお聞きすると、ああ、このツアーを企画してよかったなと心から思います。
今後も、もっともっと多くの方々に豊かな体験をお届けしたい。そのために、日々さまざまなことにアンテナを張り、有意義なプランを実現させるべく精進していきたいと思います。
(取材・文/田中亜希:キクカクハナス)